退職を迎えるにあたり


高橋剛一郎教授

大学の北側出入口,より正確に言うとキャンパス北西角にある門の側の,もうほとんど枯れているサクラの木の下を通りかかったとき,この木のことを書いておこうと思い立った.自分からというより,この老木に促されたような気がした.
この門(入り口)は,現在の富山県立大学の前身である富山県立技術短期大学(さらにその前身は富山県立大谷技術短期大学)時代の正門であった.工学部ができる前までは多くの学生,教職員がこの門を通っていた.私自身も,1983年4月に短大に勤めてから,引っ越しをして通勤経路が変わった2013年頃まではほとんどこの門をくぐって通勤していた.そしてサクラの花の時期にはその花を見てきたはずなのだが,,,
このサクラの花を気にし始めたというか花見の対象として見はじめたのは,初めてこの門を通ってからだいぶ経ってからだった.撮影済みの写真を見直してみたが,このサクラを最初に撮ったのは2003年春のことだった(写真1, 2).以来,毎年このサクラを定点観測するように写真に写してきた.

2004年の写真には何本ものサクラが集まっていて,ちょっと豪華な感じであった(写真3).2005年もまた見ごたえのあるサクラだった(写真4).このように,見惚れるような量感,質感を見せていたのは2010年(写真5)くらいまでであったか.2013年のサクラ(写真6)は,これを見上げている通行人がいるが,その量感は以前のものよりも劣っているように思える.

2015年(写真7)になると劣勢はもう明らかである.奥(門の近く)にあったサクラはもうほとんど枯れていたのではないだろうか.2017年(写真8),2018年(写真9)と衰勢はもう止まらず,2019年には活きている枝が明らかに少なくなっているのがわかり(写真10)この木の寿命が見えてきたように思われた.そして2020年の姿がこれである(写真11, 12).果たして2021年の春にはどのような姿になっているのだろうか,,,見るのがコワイ.

この門を背にして目の前に見える建物が技術短大の棟であった.短大の一部はその後工学部の環境工学科(現環境・社会基盤工学科)へと移行していったが,2020年3月に新しい建物(中央棟)の完成に合わせて旧短大棟の中にあった研究室等は中央棟へと移り,この建物は空っぽになり,いずれ解体される予定である.まるでそれとシンクロするようにサクラは勢いを急速に減じている.長年このサクラを見ながら旧短大部棟で過ごしてきた私は今ここを去りつつある.更にシンクロが重なったようである.サクラの老木にこのことを書いておけと言われたような気がしたのは,このような重合があればこそであろう.
万物は流転し,栄枯盛衰は世の倣い.キャンパス内には勢いの増しているサクラもある.環境・社会基盤工学科も新陳代謝をしつつ,さらに勢いを増していくことを祈念し,拙文を終えることにする.